~茶・野菜・発酵食品・ダシ等々~
伝統的な和食は「抗糖化食品」の宝庫
前・同志社大学大学院 生命医科学研究科 糖化ストレス研究センター 准教授
現・エイキット株式会社 生命医科学研究センター 糖化ストレス研究所 所長
八木雅之 先生に聞く
近年、酸化と並んで老化の危険因子として「糖化」が大きく注目されています。
食生活を基本に、ふだんから意識して糖化を防いでいく「抗糖化生活」は、健康長寿の実現に重要といわれています。
抗糖化に焦点をあてたアンチエイジングの研究も、AGES(エイジズ:最終糖化産物)の測定法、抗糖化食材の探索、抗糖化サプリメント等の開発―等々、同志社大学糖化ストレス研究センターをはじめ各研究機関で進められ、目覚ましい成果が上がっています。
八木雅之先生は、この3月まで同志社大学・糖化ストレス研究センターの准教授として、現在は同研究センターと連携しているエイキット株式会社・生命医科学研究センター糖化ストレス研究所の所長として、「抗糖化」に焦点をあてたアンチエイジングの研究に携わられています。
八木先生は、糖化対策の基本は「ふだんの生活習慣、中でも食習慣が重要」という観点から、抗糖化食材もふだんの生活で手に入る食材から探し、近隣の市場から500種類以上のサンプルを収集して、その一つ一つについて糖化抑制の作用(抗糖化活性) を調べられました。
その結果、お茶をはじめ、健康茶やハーブティー、多くの野菜、果物、発酵食品、ダシ(出汁)などに高い抗糖化活性を見出され、八木先生はこうしたデータなどから、野菜摂取の重要性、お茶や野菜、発酵食品、ダシを用いる「和食」を高く評価されています。八木先生に、抗糖化食品を中心に、抗糖化を意識した食習慣、生活習慣を教えていただきました。
老化・万病の元「糖化」と 老化物質「AGEs」
八木)
フライパンで焼かれたホットケーキは、生地の中の糖とタンパク質が熱を加えられると茶色く香ばしくなったり、固くなったりします。このようにタンパク質と糖と熱が結びついて様々な変化を起こす反応を「糖化」といいます。
糖化は体内でも起きます。体内では体温(深部体温)37℃という条件下で、食事で取り入れた糖分のうち、エネルギーとして消費し切れなかった余分な糖が体内のタンパク質と結びついて糖化が始まり、最終的には「AGEs」(最終糖化産物:蛋白糖化反応最終生成物)という老化物質が生成されます。
このAGEsが体内に蓄積すると、老化や様々な生活習慣病の原因となります。
人体の組織、また血液や代謝を司る酵素も、タンパク質が重要な構成成分ですから、糖化が進むと組織はダメージを受け、最終的にAGEsができて組織にたまると、例えば皮膚(真皮コラーゲン)ではシワ、クスミ、タルミの原因になったり、骨(骨コラーゲン)では骨がもろくなったり、血管(コラーゲンやエラスチンなど)や血中(血糖管理指標にもなるヘモグロビンA1cやグリコアルブミンなど)にたまれば、動脈硬化や血流不全を招き、高脂血症、高血圧、肥満、糖尿病合併症などの要因になり、脳にたまれば神経機能へのダメージやアルツハイマー病の関連も指摘されています。
なお、食品の糖化では「メラノイジン」という褐変物質が生成して味を深めたりしますが、メラノイジンもAGEsもどちらも「焦げ」のようなもので、酸化が「錆び(サビ)」なら、糖化は「焦げ(コゲ)」とイメージするとわかりやすいと思います。
「糖化」を促進する要因 ―高血橋・酸化ストレス等
八木)
糖化をもたらす最大の危険 因子は高血糖です。糖化を起こす 代表的な糖類はブドウ糖(グルコ ース)と、果糖(フルクトース)で、 特に果糖はブドウ糖の10倍もAGEsを作り出します(下図)。
また、糖類以外にも、アルコールの代謝過程でできる「アセトアルデヒド」もタンパク質と結びついてAGEsを作ります。
タバコや紫外線などがもたらす強い酸化ストレスもAGEsの生成・蓄積を促進することがわかっています。活性酸素がもたらす酸化ストレスは、糖化ストレスと相互にリンクして生体にダブルパンチでダメージを与えます。
糖化が起きると、タンパク質でできている活性酸素消去酵素は、その機能を失って酸化が促進されますし、AGEs自体も炎症を引き起こすスイッチであるRAGEと結合して炎症も促進します。
「抗糖化生活」で アンチエイジングの実現
《血糖値を上げない食生活》
糖化を食い止めるためには、まず血糖値を上げ過ぎないことが先決です(表1参照)。 食べ過ぎ(特に糖質のとりすぎ)をはじめとして、一気食いや早食い、間食(特に甘い物・ソフ トドリンク)の習慣なども、血糖値を急上昇させたりして、食後の高血糖状態を長びかせる結果、AGEsが増えやすくなります。高血糖や血糖の急上昇を防ぐには、炭水化物をとりすぎない、ゆ っくり噛んで食べるという他に、
①食物繊維をはじめとして、タンパク質、脂質をバランスよく
食物繊維の多い野菜やキノコ、 海藻類を食前に食べたり、また、主食の穀類と一緒にとるだけでも、胃から小腸への移動が遅くなり、血糖の急上昇やインスリンの分泌が抑えられます。
食物繊維は必ずしも食前にとる必要はなく、私たちが讃岐うどんチェーンと共同で行った実験では野菜たっぷりのサラダうどんは、かけうどん(素うどん)よりも食後血糖値の上昇を抑えること、また、野菜、だけでなく温泉卵のトッピングでも卵に含まれるタンパク質や脂質が糖の吸収を抑制することを確認しました。
炭水化物を極端に制限したり、食事の順序を無理に変えたりしなくても、食物繊維やタンパク質、脂質をうまく組み合わせて、美味 しく食べながら糖化が抑えられることが示されたわけですね。
②高GI値食品に注意!
食品からとった炭水化物50gが血液に入るまでのスピードを、グルコース(ブドウ糖)を100と して比較し数値化した「GI値」は、数値が大きいほど血糖が速く上昇することを示します。GI値 表を参考に、カロリーや栄養バランスを考慮した上で高GI値食品は控えめにします。
主食は白より黒。玄米や全粒粉パンは白米や精白パンよりGI値が低く、ソバはうどんより低くなっています。甘いものやスナック類はすぐに血液中に溶けて腸に到達して血糖値を上げます。
《抗糖化食品の積極的な摂取》
八木)
一旦、体内で生成されたAGEsはなかなか代謝されずに、どんどん体内に蓄積します。血糖値が正常になっても、合併症が治りにくいのはAGEsの蓄積が大きいといわれています。 但し、生体には老化のスイッチをオンにするAGEsの受容体 「RAGE」の働きをなくす「sRAGE」という物質の存在や、酸化されたタンパク質を分解する酵素がAGEsの分解・排出に働いていることがわかってきました。
私たちは近所のスーパーマーケットなどで500種類以上の食品サンプルを集め、糖化を抑制したり、AGEsの分解・排出を捉進する食材を探しました(表2参照)。
①AGEsの生成を抑える
茶葉(緑茶、玄米茶など)や、甜茶(てんちゃ)、ドクダミ茶、柿の葉茶、グァバ茶などの健康茶や、カモミール(中でもローマカミツレなどのハーブ)には糖化反応を阻害し、AGEsの生成を抑制する高い抗糖化作用が見つかり ました。
茶カテキンにはAGEsの生成 を阻害する作用が見つかり、発酵茶の紅茶や、半発酵茶のウーロン茶にも同じ効能があります。甜茶、ドクダミ茶、柿の葉茶、 グァバ茶では、AGEsの生成を 阻害する医薬品「アミノグアニジ ン」をはるかに超える抗糖化力をもつこともわかりました。
②AGEsの分解・排出を捉進
お茶や健康茶やハーブ以外にも、春菊やサニーレタス、ヨモギなどキク科を中心とした植物は、AGEsの生成を抑制する作用だけではなく、AGEsの分解・排出を促進する作用をもつことも明らかになりました。
③伝統的な健康食品
私たちはさらに、お茶をはじめ、昔から体に良いと言われているものの中には、優れた抗糖化素材がたくさんあることも見出しました。多くの野菜や果物には抗糖化作用があり、果物では特にレモンやグレープフルーツ、ミカンなどの柑橘類では、豊富なクエン酸がエネルギーを産生するTCA回路を活性化し、食後血糖値の上昇を抑制してくれます。昔の職人さんが日の丸弁当でよく働いていたのも梅干しのクエン酸作用によるものなのかも知れません。和食が健康に良いというのは、抗糖化という観点からも領けます。香辛料のショウガ、ニンニク、酢や味噌、醤油、納豆などの発酵食品、鰹節などのダシ(出汁)にも高い抗糖化活性が見つかりました。
《糖化を促進する物質を避ける》
八木)
果物には糖化を促進する果糖が糖分の3分の1程度含まれている一方で、ビタミン・ミネラル や食物繊維、クエン酸やポリフエノールなどが糖化を抑えていると考えられ、1日200g程度なら 甘味の摂取源としておすすめです。
但し、トウモロコシのデンプンを果糖に変えた果糖液(コーンシロップ)は糖化を引き起こす元凶です。安くて砂糖の1.5倍の甘さを持ち、スポーツドリンクなどのソフトドリンク類、菓子、ヨーグル.ト、アイスクリームと広く使われています。成分表示 に、高果糖コーンシロップ(液糖)、異性化糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖という名称があれば果糖液が使われています。 ファストフードに多いハンバー グ、揚げ物にはAGEsが含まれ、 その約7%程度が体内に取りこまれるといわれ、要注意です。
糖化を起こすアルコールはほどほどに、タバコは糖化だけでなく あらゆる面から健康を阻害します。 糖化ストレスとリンクして生体を障害する、紫外線やあらゆる環境汚染物質などによる酸化ストレス対策も重要です。高塩分食もAGEsによる炎症を強めるので気をつけましょう。
《十分な睡眠・適度な運動》
八木)
摂取した糖質がエネルギーとして使われれば糖化は防げます。日常、適度な運動、家事などで体をよく動かすことも、老化を防ぐ大きな柱となります 。
舌苔(ぜったい)が多い人、口や喉のがんに注意!
舌表面の白い汚れ「舌苔」が多 い人は口や喉のがんの原因とされる「アセトアルデヒド」の口中濃度が高いことを岡山大学と北海道大学のチームが突き止めた。 健康な男女65人を対象にした調査では、舌苔が舌全体の3分の2以上付着した人の呼気中アセトア ルデヒド濃度は、3分の1以下の人の約3倍だった。舌苔を除去すると濃度は下がる。舌をきれいにすることががん予防につながる可能性がある。
コーヒー・緑茶は、長寿をサポート
国立がん研究センターが全国40~69歳の男女約9万人に、コーヒーや緑茶の1日摂取量を他の生活習慣などと合わせて質問、約19年間の経過を調査した。その結果、死亡リスクはコーヒー1日3~4杯飲む人ではほとんど飲まない人に比べて24%、 緑茶は1日1杯未満の人に比べて1日5杯以上飲む男性は13%、女性は17%低かった。
コーヒーにはクロロゲン酸、緑茶にはカテキン、両方に血管や呼吸器の働きをよくするカフェインが含まれ、こうした成分が心臓病や脳卒中の死亡を減らしたと考えられている。
カフェインについては「心臓病の人は摂取で血圧が急上昇する影響も考えられ、妊娠中や腎臓病の人も注意してほしい」と研究メンバーの野田光彦氏は話している。
コミュニケーション紙「けんこう334」より
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